中華食材の棚で、真っ黒な瓶を見かけたことはありませんか。
ラベルには「鎮江香醋」。気にはなったけれど、使い道が浮かばずに棚へ戻す。僕も最初はそうでした。
調味料は、買ったあとが問題です。豆板醤も甜麺醤も、一度使ったきり冷蔵庫の奥で眠っていませんか。
僕は元中華料理人です。ホテルの厨房では、黒酢のタレと小籠包のつけダレに鎮江香醋を使っていました。いまは自宅の台所で、餃子と蒸し野菜に使っています。
この記事では、鎮江香醋の味と香りの正体、米酢との違い、そして加える場所で役割が変わる話をまとめました。買える場所と選び方まで分かります。
読み終えるころには、ご自身の台所に必要な1本かどうか、判断できるはずです。
先に結論から。鎮江香醋は、何かと混ぜる必要がありません。皿に少し垂らすだけで、その日から使えます。
鎮江香醋とは?味と香りの正体

まずは「鎮江香醋がどんな調味料なのか」を知っておきましょう。
産地・原料・製法を押さえておくと、このあと紹介する使い方の理由も分かりやすくなります。
江蘇省鎮江市の黒酢。もち米と小麦ふすまから作られる
鎮江香醋は、中国江蘇省鎮江市で作られる黒酢です。
どちらの表記も見かけます。僕が買った瓶も、表は「醋」、裏の日本語ラベルは「酢」でした。
「醋」は「酢」の異体字で、指しているものは同じです。
山西老陳醋、永春老醋、保寧醋と並ぶ、中国四大名醋のひとつです。
日本では「中国三大名酢」と紹介されることもあります。
ただし中国では、四川省の保寧醋を加えた四つで数えるのが一般的です。
鎮江香醋は、中国政府が産地を保護している調味料です。
鎮江で、決められた製法で作ったものだけが「鎮江香醋」を名乗れます。
製法は、まずもち米でお酒を造ります。
そこに小麦ふすまを加え、液体にせず固体のまま発酵させるのが特徴です。
※小麦ふすまとは、小麦を製粉するときに出る外皮の部分のこと。生麩・焼き麩のような食品とは別物です。
その後、数か月から数年かけて熟成させます。


お酒からお酢を作るの?

まずお酒を造って、それを酢酸発酵させるんだ。小麦ふすまを混ぜて固体のまま発酵させるのが、鎮江香醋らしいところだよ
原材料(僕が購入した恒順の商品ラベルより)- 水
- 糯米(もち米)
- 麦麸(むぎふすま)
- 白砂糖
- 食用塩

栓を開けると、酢より醤油に近い香りがする
自宅で瓶を開けたとき、最初に驚いたのが香りでした。
想像していた「ツンとした酢の匂い」ではなく、醤油に近い、香ばしい香りがしたのです。

え、お酢なのに醤油みたいな匂いなの?

そうなんだよ。小麦ふすまを使って発酵させているせいか、香ばしさが強いんだ
実際に使ってみて感じた特徴を、僕の言葉でまとめました。
- 香ばしい
- 醤油に近い香り
- 鼻に抜ける
- じわっとくる酸味
- ツンと来ない
- こっくりした後味
- 見た目は真っ黒
- とろみを感じる

米酢のような、鼻を突く刺激はほとんどありません。
酸味よりも先に、香ばしさを感じる。それが鎮江香醋の入り口です。
米酢・日本の黒酢との違い
「黒酢」と聞くと、日本の黒酢や、普段使っている米酢を思い浮かべる方も多いと思います。
でも実際に並べてみると、香りも色も、はっきり違います。
米酢は透明に近い色で、香りも比較的あっさりしています。
鎮江香醋は見た目が真っ黒で、とろみを感じるほど濃厚です。
日本の黒酢は、一般的に玄米を主原料にして、長期間発酵・熟成させると言われています。
鎮江香醋は、もち米に小麦ふすまを加えて発酵させる点が異なります。
原料が違うぶん、香りの系統も別物になります。

日本の黒酢とひとくくりにされがちだけど、原料も香りも別物だと思っておいた方がいいよ
| 項目 | 米酢 | 日本の黒酢 | 鎮江香醋 |
|---|---|---|---|
| 色 | 透明に近い | 濃い茶色〜黒褐色 | 真っ黒 |
| 香りの系統 | あっさり、ツンとした酸味 | まろやかな香ばしさ | 醤油に近い、香ばしい香り |
| とろみ | さらっとしている | 米酢に近く、さらっとしている(銘柄による) | とろみを感じる、濃厚 |
| 主な原料 | 米 | 玄米(一般的に) | もち米・小麦ふすま |
鎮江香醋は、米酢の代わりでも、日本の黒酢の代わりでもありません。香り・色・とろみ、すべてが違う調味料です。
鎮江香醋は、加える場所で役割が変わる

鎮江香醋は、いつ加えるかによって、味の役割がまったく変わります。
タレに入れて煮るのか、盛り付けたあとに垂らすのか。同じ調味料でも、タイミング次第で「コク」にも「香り」にもなります。
火を通すと、酸味が和らいでコクになる
鍋の中で加熱すると、ツンとした刺激はやわらぎます。
ただし、酸味そのものがなくなるわけではありません。
加熱で先に抜けていくのは、香りの成分です。
酸味のもとになる酢酸は熱に強く、加熱しても壊れません。
ただし長く煮詰めたり、高温の油で炒めたりすると、酸味も少しずつ湯気と一緒に抜けていきます。
それでも香りほど急には飛びません。結果として、角の取れた丸みのある酸味が、料理全体のコクとして残ります。
加熱すると、鎮江香醋の香りは先に飛びます。
酸味のもとは熱に強く、簡単にはなくなりません。
「香りを捨てて、コクを取る」使い方だと考えてください。
ホテルで作っていた黒酢だれも、鍋の中で火が入ります。
あらかじめ合わせておいたタレを鍋に流し、とろみをつける。そこへ油通しした食材を戻して、一気に絡める。
短い加熱ですが、それだけで角が取れます。皿に出たときには、酸っぱさより先にコクを感じる味になっていました。
油通しとは、食材を熱い油にさっとくぐらせる下ごしらえのことです。やり方は家庭で本格的な油通しはできる。ホテル中華出身の調理師が「なぜ」から解説するで詳しく解説しています。

あんにする一瞬でも、酢の角はちゃんと取れるんだよ。長く煮る必要はないんだ
後から足すと、熟成の香りが立つ
反対に、仕上げに加えたときは印象がまったく違います。
熟成でできた香りの成分は熱に弱く、加熱すると失われやすい特徴があります。
盛り付けたあとに垂らすと、あの香ばしい香りがそのまま鼻に抜けます。

香りを立たせたい調味料は、火を止めてから使う。ごま油と同じ考え方だよ
僕自身、餃子や蒸し野菜のつけダレとして使うときは、加熱せずそのまま使っています。
香りを楽しみたいなら後から、コクを出したいなら火を通す。この使い分けが、鎮江香醋を活かす一番のポイントです。
ホテルの厨房では、タレとつけダレに使っていた
僕がホテルの広東料理の厨房にいたころ、鎮江香醋は黒酢だれと小籠包のつけダレに使っていました。
黒酢だれの黄金比は、当時先輩から現場で直接教わったものです。
その黄金比は、鶏と野菜の黒酢あん|タレは1:1:1。油通しを3つに分けるのがプロの作り方にまとめました。
小籠包のつけダレには、針生姜(細く千切りにした生姜)を添えるのが定番でした。
一方で、炒め物には使っていません。
避けていたわけではなく、単純に当時のメニューに炒め物での使用がなかっただけです。
油淋鶏(ユーリンチー)のタレには、鎮江香醋ではなく普通の酢を使っていました。
理由は、正直なところ聞いていません。

今になって『なんでだったんだろう』って思うよ。聞いておけばよかった
現場のやり方には、答えの分からないまま受け継がれているものもあります。
その油淋鶏のタレの黄金比は、別の記事にまとめています。
油淋鶏のタレはこの黄金比で決まる|ホテル厨房で使い続けた本格ネギだれ
鎮江香醋の使い方4選|家での実践と、お店で見つけた食べ方

ここからは、実際にどう使っているかを紹介します。
僕が自宅で日常的に使っている方法と、外食先で見つけた食べ方の両方をまとめました。
餃子・焼売・蒸し野菜のつけダレ

僕が一番よく使うのが、このつけダレです。
餃子や焼売はもちろん、蒸し野菜との相性もいいと感じています。
鎮江香醋だけで、そのまま使っています。
何かを足す必要はありません。
醤油やごま油、砂糖を加えるとさらに良さそうだと感じていますが、僕自身はまだ試せていません。

醤油とか足さなくていいの?

僕はそのままで十分美味しいと思ってる。物足りなければ足してもいいけど、まずはそのままの味を試してほしいな
蒸し野菜を作るなら、せいろがあると一気に楽しくなります。サイズ選びと蒸し方はこちらにまとめました。
中華鍋×せいろは最強!蒸し板の活用と失敗しないサイズ選びをプロが解説
唐揚げに直接ひと回し

唐揚げに、鎮江香醋を直接ひと回しかけるだけです。
タレを別に作って絡めるのではなく、揚げたてにそのままかけます。
油っぽさが和らいで、後味がすっきりします。
まずは一切れだけ試してみてください。かける量はお好みで調整できます。
唐揚げを揚げたあとの油をどうするかは、こちらにまとめています。
揚げ油の再利用、何回まで使える?プロが教える管理・保存・交換の判断基準
担々麺は、後半にかける

先日行った中華料理店で、担々麺の卓上に鎮江香醋が置いてありました。
最初は何も加えずに、そのままの味を楽しみます。
食べ進めて味に変化がほしくなったタイミングで、鎮江香醋をひと回し。
すると、香ばしさが加わって、後半も飽きずに食べられました。
最初からかけるのはおすすめしません。まずはお店の味そのものを楽しんでから、試してみてください。

一杯の中で味が変わっていくのが楽しいんだよね
水で割って飲む

少し変わった使い方ですが、水で割って飲むこともあります。
独特な味わいですが、僕は気に入っています。
万人におすすめできる飲み方ではないので、気になる方だけ試してみてください。
これは僕個人の好みです。無理に試す必要はありません。
買う前に知っておきたいこと
最後に、実際に買う前に気になりそうな点をまとめます。
米酢で代用できるのか
「わざわざ買わなくても、家にある米酢で代用できないの?」
と思う方もいると思います。
正直なところ、どのくらいの量に置き換えればいいか、僕自身まだ試せていません。
香りも色も違う調味料なので、同じ分量で置き換えても、同じ仕上がりにはならないと考えられます。
代用できるかどうかより、まずは鎮江香醋そのものの味を知ってから判断することをおすすめします。
米酢での代用比率については、僕自身まだ検証できていません。分かり次第、記事を更新する予定です。
僕は業務スーパーで買っています
僕が使っているのは、業務スーパーで購入した恒順(ヘンシュン)の鎮江香醋です。
550mlで、瓶にはメーカー名・原材料・総酸の数値などがしっかり表示されています。
原材料には小麦ふすまが使われています。ラベルにも「一部に小麦を含む」と表示があります。小麦アレルギーのある方はご注意ください。
業務スーパー以外でも、中華食材専門店やネット通販でも取り扱いがあります。
近くに業務スーパーがない方は、ネット通販が確実です。

業務スーパーで買えるなら、気軽に試せそうだね
ただし、取り扱いは店舗によって異なります。近くの店舗になければ、ネット通販でも入手できます。
保存方法と、使い切るペース
瓶の裏ラベルには、直射日光と高温多湿を避けた常温保存と書かれています。
ただし注意書きに、もうひと言あります。気温が高い時期は、冷蔵庫での保管をすすめる一文です。
僕は年間を通して冷蔵庫に入れています。
酢は酸性が強く、常温でも比較的傷みにくい調味料です。それでも開封後は空気に触れて風味が変わっていきます。
賞味期限は未開封で2年ほど先の日付でした。ただし期限は、あくまで未開封のときの目安です。
つけダレや唐揚げ、担々麺と、使い道は意外と多いので、思ったより早く使い切れると思います。
ラベル表示:直射日光・高温多湿を避けて常温
注意書き:気温が高い時期は冷蔵庫を推奨
僕の実践:一年中、冷蔵庫で保管

まとめ|1本置くと、家の中華が変わる
鎮江香醋は、加える場所で役割が変わる調味料です。
火を通せばコクに、後から足せば香りに。
どちらも、何かを足す必要はありません。
餃子のつけダレに、唐揚げにひと回し。まずは、そのままの味を試してみてください。
まずは1本、台所に置いてみませんか。

お店の棚で見かけて、使い道が浮かばずに戻したことがあるなら、今度は手に取ってみてほしいな
■ 本格中華を極める3つのロードマップ
ここまで読んでいただきありがとうございます!
あなたの「もっと上達したい」に合わせて、3つの道を用意しました。
①【🎓理論】失敗しない理屈を学びたい
②【😋実践】プロの味を今すぐ再現したい
③【🔪道具】形から入って、料理の質を底上げする





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