レシピの分量も手順も完璧。それなのに「なぜか味が決まらない」と感じたことはありませんか?
スーパーで指定の分量のお肉を必死に探し、調理中は計量に追われ、気づけば食材に火が入りすぎている……。そんな経験、一度はあるはずです。
でも実は、それはセンスの問題ではありません。レシピの数字は、現場の感覚を家庭向けに仮置きした「目安」に過ぎないからです。食材の状態は毎回違うのに、数字だけを正解だと信じると、かえって味はブレてしまいます。
僕は調理師として働く中で、「レシピは地図であって、正解ではない」と学びました。僕は、大さじ・小さじの数字よりも、味のバランス(比率)を何より大切にしています。
この記事で伝えることはシンプルです。分量に縛られず、調味料の「比率」で味を考えること。これだけで、あなたの料理は劇的に安定します。
読み終える頃には、分量に振り回されることが減り、自分で味を整える感覚が身についているはずです。
なぜレシピ通りなのに美味しくならないのか

「レシピの分量も手順も完璧に守った。なのに、なぜか美味しくない……」
そう感じたとき、自分には料理のセンスがないんだと諦めていませんか?
結論から言えば、それはあなたの腕のせいではありません。実は、「レシピの数字を正解だと信じ、忠実に守りすぎること」こそが、失敗の最大の原因です。

レシピは、「いつでも・誰が作っても・必ず同じ味」になる魔法の公式ではないよ
かつて広東料理の巨匠・周富徳さんは、こんな名言を残しています。
「レシピを教えても、私と同じ味にはならない。火加減や鍋の振り方、そして食べる人を思う気持ちまでは、文字では伝えられないからだ」
出典:周富徳 著『周富徳の広東料理』ほか
まず知っておいてほしいのは、レシピは「誰が作っても同じ味になる公式」ではない、ということです。
レシピは、誰かが特定の環境下で作った記録です。なので当然レシピを書いた人と、あなたのキッチンでは条件が違います。
- 夏のトマトと冬のトマトでは水分も糖度も違います。
- 同じ「玉ねぎ1個」でも、重さも水分量も毎回異なります。
- 醤油や味噌はメーカーによって塩分濃度が数%変わります。
- 鉄のフライパンかテフロンか、ガスかIHか。これだけで食材への熱の伝わり方は別物になります。

こんなに違いがあったら完全再現は難しいね
レシピ通りでは「判断力」は身につかない
レシピをなぞるだけの料理は、カーナビの指示通りに運転しているのと似ています。
知らない場所へ行くとき、カーナビをセットすれば目的地まで迷わず辿り着けますよね。
でも、指示通りに何も考えず進んでいると、到着はできても道順はほとんど覚えていないはずです。
料理も同じです。
レシピに書かれた分量や工程をそのままなぞれば、料理はそれなりに完成します。
しかし次に、レシピなしで同じ料理を作ろうとすると、きっと手が止まってしまいます。
例えば「玉ねぎを5分炒める」という指示があったとします。
ここで、ただ時間だけを守って炒めていると、「なぜ炒めるのか」という目的を考えなくなります。
甘みを引き出すために飴色にしたいのか、食感を残すために透き通る程度で止めたいのか。
その判断をする機会を失ってしまうのです。
「なぜ?」を理解し、目の前の食材の状態を見て判断する力。それが、レシピに頼らず料理をするための「料理脳」です。
これは特別な才能ではなく、誰でも身につけられる技術です。

レシピ本には「書けないこと」がある
レシピ本の世界では、「レシピはなるべく短いほうがいい」という考え方が常識です。

毎日忙しいなかでごはんを作る人にとって、長くて難しそうなレシピは敬遠されてしまうんだ
でも、レシピを短くしようとすればするほど、どうしても省かれてしまうものがあります。
それは、「こうしたほうがおいしい」「こうしたほうがラクで早い」などの小さな工夫です。
些細なことかもしれませんが、やるのとやらないのとでは、仕上がりに大きな差が出るものばかりです。ただ、そうした判断やコツは、レシピというフォーマットの中には収まりきりません。
結果として、大切だけれど書かれないことが、どうしても生まれてしまうのです。
例えば、レシピにはよく「水溶き片栗粉を加えてとろみをつける」と一行で書かれています。
多くの人は火にかけたまま片栗粉を流し込み、ダマになったり、粉っぽさが残ったりします。
現場では必ず、一度火を止めてから加え、全体を混ぜてから再び強火で沸騰させる、という手順を踏みます。
レシピ通りに作ったのに、「ダマになってしまう」「お店のような艶がでない」その原因は、片栗粉を入れるときの「鍋の温度」をどう扱うかという大事なポイントが、レシピには書かれていないからです。
大さじ小さじを卒業する|現場で使われる「割合」の思考法

「ひき肉300g」と書いてあるレシピを見て、スーパーの棚で312gや285gのパックを前に「これじゃ味がズレる」と途方に暮れる。
あるいは、調理中に「醤油大さじ1と1/2……えーと」とスプーンを取り出している間に、フライパンの食材がどんどん焦げていく。
そんな光景を目にしたことがあります。
それはあなたの料理が下手だからではありません。
レシピに書かれている「300g」や「大さじ1と1/2」は、絶対に守るべき正解ではなく、あくまで家庭で再現しやすくするための目安です。
本来、料理の味はグラムで決まるものではありません。

プロの現場では、ひき肉が300gか350gかを気にすることはないよ。その量に対して、どんな割合で調味料を入れるかだけを見ているよ

先に味のバランスを決めてしまえば、あとは「少し濃いか、薄いか」を整えるだけ。料理は、もっとシンプルに考えていいんだ
中華の現場で使うのは、計量スプーンではなく目盛りのない「中華お玉」です。そこで測っているのは「重さ(グラム)」ではなく、「割合」です。
現場では、「醤油がお玉1なら、酒も1、砂糖は半分」といったように、味のバランスを比率で覚えています。
レシピ本に書かれている「大さじ1」などの数字は、この感覚を家庭でも真似しやすいように、あとから数字に置き換えただけの目安です。
例えば、レシピに「ひき肉300g」と書いてあって、手元に350gの肉があったとします。
真面目な人ほど「50gは使わずに残そう」と考えがちですが、おすすめしません。
50gだけ残しても使い道に困るし、料理が面倒になります。
ここで役に立つのが「割合」の考え方です。
肉が300gから350gに増えたなら、調味料も同じバランスのまま、全体を少し増やすだけ。
味の組み立て(割合)が合っていれば、食材の量が多少変わっても、味が崩れることはありません。
中華では、合わせ調味料が基本
僕は、料理を始める前に必ず「合わせ調味料」を作ります。中華に限らず、どこの調理場でも、合わせ調味料を先に用意しておくのは、よくあることです。
ボウルの中で調味料を比率どおりに混ぜ、その時点で一度味見をして「この味でいこう」とゴールを決めてしまいます。

先に味のバランスさえ整っていれば、あとは鍋の中の食材に対して「どれくらい入れるか」を調整するだけです。
調理中に「しょっぱいかも」「もう少し甘い?」と迷う必要がありません。

合わせ調味料は、少し多めに作るのがおすすめだよ。
足らなくなると、作り直しでバタついちゃうからね
お菓子作りだけは「グラム」を守ること

「お菓子作り」は、料理とはまったく別の競技だと考えてください。
料理は、素材の重さが多少変わっても、調味料の割合さえ合っていれば、自分の舌で味を見ながらリカバリーできます。一方、お菓子作りでは、それが通用しません。
例えば、ケーキの生地や焼き菓子を作るとします。
小麦粉、卵、バター、砂糖。これらの材料は、熱を加えることで結びつき、膨らみ、固まります。そのすべてが、緻密に計算された化学反応です。
たとえば、ベーキングパウダーが1g多い、卵が数グラム違う──それだけで生地の気泡の立ち方や、焼き上がりの食感は大きく変わってしまいます。

お菓子作りにおいて、計量スプーンは「目安」でなく、成功を保証するための、絶対的な基準なんだ
「料理は得意だけど、お菓子は苦手」という人の多くは、料理の感覚でお菓子を目分量や割合でアレンジしようとして失敗しています。
お菓子を作るときだけは、レシピに書かれた数字を1gの狂いもなく守ること。
これが、失敗しないための唯一の鉄則です。
中華に学ぶ「調理の型」

料理で失敗しやすい一番の理由は、火にかけながら、同時にあれこれ考えてしまうことです。
- 味はこれでいい?
- 火は強すぎないか?
- 次はなに入れるんだっけ?
頭が追いつかなくなって、だんだんパニックになっていきます。
中華の現場では、これを防ぐために最初に考える順番を決めておきます。これが、「調理の型」になります。

中華では、火にかける前に考えることは終わらせておくよ
- 食材はすべて切っておく
- 合わせ調味料をつくり、味を決めておく
- 最後に入れる、水溶き片栗粉やごま油なども近くに用意しておく
こうしておけば、火にかけてから迷うことはありません。

実は中華の現場では、火にかけてから完成まで1分もかからないことも多いよ。
家庭料理のように「鍋の中でじっくり火を通しながら味を整える」という概念がないんだ
家庭で「味が決まらない」と悩む人の多くは、火にかけてから「薄いかな?」「もう少し足す?」と迷い始めます。でもその間も、鍋の中では火が入り続け、食材はどんどん“ちょうどいい瞬間”を通り過ぎていきます。
中華の「調理の型」を身につけるというのは、その迷いを鍋の外で終わらせておくということです。先に味の方向を決め、下準備を整え、火にかけたら一気に仕上げる。そうすることで、食材のいちばん美味しい瞬間を逃さず、自信を持って皿に盛りつけられるようになります。
広東料理の【隈(お湯通し)】
中華の技法といえば、たっぷりの油に食材をくぐらせる「油通し」が有名です。しかし、家庭で大量の油を用意し、その後の処理に困ることを考えると、なかなか挑戦しにくいと思います。
そこで僕がおすすめしたいのが、広東料理の現場で日常的に行われている「隈(わい)」と呼ばれるお湯通しです。
やり方は、沸騰したお湯に「多めの塩」を入れるだけです。塩を多めに入れるのは、単に色を良くするだけでなく、「食材に下味を入れる」という役割があるからです。入れる塩の量に決まりはないですが、三本指でつまめるくらいでいいと思います。
そこに野菜などを入れ、あらかじめ8割くらい火を通しておきます。こうすることで、炒める工程は“仕上げ”だけで済むようになります。

隈をするメリットは、炒め物の工程を「加熱」から「味を絡める作業」に変えられることなんだ

炒め物に限らず、広東料理の現場では色々な料理で【隈】しているよ
- 鍋に、たっぷりではなく少量のお湯を沸かす
- そこに多めの塩をいれる
- 食材を入れ、さっとお湯にくぐらせる
- 食材をザル(炸鏈ザーレン)にあげて待機
「隈」で下処理を終えたら、あとは決まった「型」に沿って進めるだけです。
ここからの工程は、毎回レシピを確認する必要はありません。すべて共通した一つの「型」に沿って進めていきます。炒め物を作る手順を見ていきましょう。
- 隈に使った湯は捨て、鍋をさっと拭いてから強火にかけます。
- あらかじめ作っておいた合わせ調味料を鍋に入れ、しっかり沸騰させます。
- 火を止めてから水溶き片栗粉を加え、全体をよく混ぜます。混ざったのを確認したら、再び強火にかけとろみをつけます。
- 最後に、ザル(炸鏈ザーレン)で待たせていた食材を鍋に戻します。強火のまま、たれを絡めるだけで完成です。
オイスター炒めならオイスター炒めの比率で、塩炒めなら塩炒めの比率で、あらかじめ合わせ調味料を作るだけ。具材が変わっても「型」は変わりません。この流れを一度覚えてしまえば、調理中にスマホでレシピを確認する必要もなくなります。

比率を覚えれば、具材や量が変わっても応用できるってことだね

具体的な比率やレシピについては、別の記事で詳しく解説しているよ
まとめ
ここまでの話を整理しておきましょう。
レシピに振り回されないために抑えておきたいのは、次のポイントです。
- レシピ通りに作っても美味しくならないのは、あなたの腕の問題ではない
- レシピ本は「結果」は書けても、火加減や判断のタイミングまでは書けない
- 調味料は、比率で考える。素材の量が増減しても、割合さえ合っていれば味の中心はブレない。
- 中華では、調理前に合わせ調味料を作るのが基本
- 中華の「調理の型」を覚えると、具材が変わっても応用が効く
- 広東料理の「隈(お湯通し)」は、家庭でも再現できる下準備の技術
ここまで読んでいただきありがとうございます。
レシピの数字という「他人の正解」を追いかけるのをやめて、自分の感覚を信じて、レシピをなぞる料理は今日で終わりにしましょう。



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